海外出張レポート

第10回国連犯罪防止会議

法学部法律学科
竹村 典良助教授

5年振りに訪れたウィーンは、人々が時を忘れて談笑するカフェが点在する落ち着いた街並みと悠久の流れを見せるドナウが迎えてくれ、5年という歳月の流れを感じさせなかった。

第10回国連犯罪防止会議(Tenth United Nations Congress on the Prevention of Crime and the Treatment of Offenders)が2000年4月10日から17日にオーストリアの首都ウィーンで開催され、事務総長らの招請により専門家オブザーバーとして参加する機会を得た。今回日本から会議に参加した大学関係者は5名であるが、うち4名は政府代表あるいは国連機関関係者として参加し、純粋な専門家オブザーバーとして招請されたのは私だけであった。

国連犯罪防止会議は1955年以降、5年ごとに開催され、国際、各国内の両レベルにおける犯罪防止ならびに犯罪者処遇の理論と実践に重大な役割を果たしてきた。新しいミレニアムに差し掛かろうとしている時に開催された第10回会議は、"Crime and Justice: Meeting the Challenges of the Twenty-first Century"をテーマとし、@法の支配の促進と刑事司法システムの強化、A国境を越える犯罪(transnational crime)との戦いにおける国際強力〜21世紀における新たな挑戦、B効果的な犯罪予防〜新たな発展に遅れをとらないために、C加害者と被害者〜司法過程における責任と公正について協議された。また、@汚職との戦い、Aコンピュータ・ネットワークに関連する犯罪、B犯罪予防へのコミュニティーの参加、C刑事司法システムにおける女性についてのワークショップも設けられ、より実践的な議論が交わされた。さらに、本会議の集大成としてミレニアム国連総会に提出される「ウィーン宣言」(Vienna Declaration on Crime and Justice: Meeting the Challenge of the Twenty-first Century)草案の内容をめぐって活発な意見交換が行われた。これらを通じて、各国間、とりわけいわゆる先進国と発展途上国との間の利害関係の衝突の様子がうかがえ、国際レベルにおいて歩調を合わせて調整を行うことの難しさを目の当たりにする貴重な体験をすることができた。

本会議は、もともと研究者レベルの会議であったが、現在では政府間会議の形態となり、今回も世界中から188の加盟国の代表(数名から数十名まで各国まちまちである)が一同に会する大規模な会議であった。これに犯罪防止と犯罪者処遇に関係する国連機関、NGO、専門家、研究者が世界中から参加し、多数のancillary meetingがプログラムされており、各種テーマについて活発な討議が交わされていた。今回とりわけ注目されたのは、政府間レベルにおいても民間レベルにおいても、いわゆる「修復的司法」(restorative justice)の理論、実践問題をめぐる議論が活発に行われていたことであり、21世紀に向かって、今後これまでの応報的司法でも矯正的司法でもない、第3の新たな司法の在り方として注目されるであろうことが確実視された。

会議は8日間連続で日曜日も休むことなく行われ、朝から晩までセッションが詰まっていて、かなりハードであったが、会議の前日と翌日のフライトの空き時間に、犯罪学に関係のあるウィーン犯罪博物館(Wiener Kriminalmuseum)とフロイト博物館(Sigmund-Freud-Museum)を訪れることができた。前者はウィーンの犯罪史上に残る事件を多数の凶器や写真で展示している連邦警察運営の博物館で、後者は心理学、精神分析学の祖とされるフロイトが1891年から1938年まで居住した家で診察室等が残されている博物館である。いずれも極めて興味深いものであり、時を忘れて見入ってしまった。

最後に、今回の会議のテーマと関係する近年の私の研究をまとめた報告ペーパー「犯罪と刑罰の情報学」(Informationology of Crime and Punishment)が、国連会議の公式文書として登録され(A/CONF.187/13/Add.8)、専門家オブザーバーとしての責務を果たしてきたことを報告したい。


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